齊藤依の自分以外他人理論

言の葉を置く場所

たなか(故・ぼくのりりっくのぼうよみ)という人

齊藤依です。

「たなかさんのカバー連日投稿されてることに気づいてから鬼リピしてるしコメントまで残してしまったけど本当に天才以外の言葉では言い表せない」
という馬鹿っぽいツイートをしてしまいました。140文字ではこの人物について語れないからです。
Youtubeのコメント欄には
「ありのままの自分を表現して認められる場所があるんだと羽ばたいたけれど、その先で求められた自分と本当の自分のギャップで息苦しくなって死んでしまった。最後に違う自分を求めてきた人や築き上げてきた違う自分を卑下するように火に油を注ぎその時彼が思っていたことを圧倒的な歌唱力とリリックで吐き出して死んでしまった。自分はそんな彼の暗い歌詞に自分を重ね励まされて生きて今がある。
だから貴方が好きな曲を好きなように歌っている姿が見れて幸せです。ありがとう。」
とコメントを残してしまった。気恥ずかしさすら感じられる文章だが、何故そう書くに至ったか、たなかとぼくのりりっくのぼうよみを並べて書くことは無粋だとわかっていながらも、書く手が止まらない思いを遺そうと思う。

接吻
https://youtu.be/qWCyIe9r0L4
情熱
https://youtu.be/ucCKOXoLfBs
いとしのエリー
https://youtu.be/eJhtpd3logM
と連日カバー動画を投稿しているたなかという人物。
彼は故・ぼくのりりっくのぼうよみとは別人である。

故・ぼくのりりっくのぼうよみは2015年12月に1stアルバム『hollow world』でメジャーデビューを果たした。
ニコラップ出身ということや彼の書くリリックの知的さからラップだけどHIP HOPではないジャンルだった。
デビューアルバムに収録されている『Black Bird』という楽曲がとても好きで私はよく聴いていたし、誠に勝手ながらカバーをTwitterに投稿させていただいている。
この楽曲は
「生まれた時に押された烙印 何億もの二重螺旋が紡いだ
 なんせ羽が黒いだけでこんなに 暮らしにくい世の中で
 簡単に割るデッドライン」
というリリックから始まる。
私は自分に重ねて解釈していたので
「生まれた時に押された烙印」=障害という診断
「何億の二重螺旋が紡いだ」=DNA、遺伝子配列
という風に捉えている。
楽曲の物語は周りとは違うカラスが変わらない世の中に希望を捨てきれずに絶望していくという内容で進んでいく。しかし最後には
「たかが色の違いで何を馬鹿な」
「変われるの?こんな僕でも ろくでもない世界に告げる終わり」
といった歌詞が続き
Black Bird Black Bird 良かったな お前には翼がある
 黒い空が晴れ渡る この天気なら飛べるんじゃないの
 もう誰も気にしなくていいだろう
 この広い空は お前の お前だけのものだ」
という歌詞で締めくくられる。
ぼくのりりっくのぼうよみ一周忌のドキュメンタリー "追憶"
https://youtu.be/oKTmNQlWyU0
内にて
ぼくのりりっくのぼうよみを名乗り始めた頃は自分の中にある感情とか複雑なものをデフォルメしてメロディとかトラックの雰囲気に合わせて一つの芸術に昇華していくみたいなことかま自分の中で楽しかった。」
と語っており、そのありのままの自分を表現をしている音楽が評価されメジャーデビューに繋がったことが、諦めて絶望していた世の中に希望が見えたのではないかと感じる。
その後2017年1月に2ndアルバム「Noah's Ark」をリリース。同年の3月から初の全国ツアーを敢行。5月には2ndシングル「SKY's the limit/つきとさなぎ」を発売。2ndアルバム「Noah's ark」に収録されている「Be Noble」は映画「3月のライオン」の主題歌としてタイアップ。2ndシングル「SKY's the limit」は資生堂「アネッサ」のCMソングとして起用された。
上記ドキュメンタリーの中で
「一通りやったなという中で2枚目を出しますとか次の作品を作っていこうって当たり前のことなんですけど、やりたいこと…あるっちゃあるけど頑張って探すみたいな。(仕事としてやらなければいけないと)どうしてもそうなっちゃって。そこからちょっとずつ崩れだしたなという感じはあって…でもとにかく憂鬱でしたね。」
と語っているようにぼくのりりっくのぼうよみの名前が広まるほど、ファンや業界人に求められるぼくのりりっくのぼうよみ像と自分の中に不変的にあるぼくのりりっくのぼうよみ像のズレがあったのだろうと感じた。
2018年9月「NEWS ZERO」に出演。テレビという媒体を使って大々的に2019年1月をもって3年間の音楽活動に辞職することを発表した。
当時のインタビューで「ありたくない自分であるぐらいだったらそれをやめたほうがいい。それを一つ示したい。」と発言していたことからもありのままのぼくのりりっくのぼうよみでいられなくなったのだろうと思う。
先程と同じドキュメンタリー映像の中で「3rdアルバムのツアーのライブのリハーサル中に目を開けて歌えなくなってしまって…」と語っており彼の苦しみや重圧は計り知れない。
引退発表の際の「天才をやめる」等の発言やTwitterでファンを煽り馬鹿にするようなツイートを繰り返したため炎上したが、その行動原理として同上のドキュメンタリー映像の中の言葉を私なりにぎゅっと縮めると「ぼくのりりっくのぼうよみ像をかき消してまっさらな状態の自分を見てほしかった。」というものがあったことを語っている。
しつこいほどにこの動画から彼の言葉を書き出し引用させていただいたが、この部分の表現は本人の言葉を書き出すのもおこがましいほどに、彼の感性が出ている部分なのでぜひ映像をご覧いただきたいのでもう一度リンクを貼っておく。
ぼくのりりっくのぼうよみ一周忌ドキュメンタリー "追憶"
https://youtu.be/oKTmNQlWyU0
そして来たる2019年1月29日に葬式が開かれ、同月31日に正式に辞職した。
4thアルバム「没落」に収録されている「人間辞職」という楽曲はまさにその時のぼくのりりっくのぼうよみを表現していたし、私はその楽曲に自分を重ねて共感し、彼に同情までした。
「頭を過る言葉の中には あからさまに人を辞すべきもの」
「生きてはいたい 生きてはいたい
 人間でなくても 人間でなくても」
「誠に誠に申し訳ありませんと
 この慚愧の念に堪えがたく※1 思っております
 私は私は責任とって 人間辞職
 人間を辞すことで 責任を取らせていただきます」
「この社会も思えば学校も どうにも馴染めずに」
「時間通りに言われたことをこなすのさえ
 至難の業 痛いよなんか 太陽なんか
 沈んで二度と帰ってくんな」
「人間 人間 人間なんてオワコンなんだよ
 この社会に辞職届を叩きつけます
 私は私は責任とって 人間辞職
 人間を辞すことで 命を全うしていきたいと思います」
「私の生命は私のもの 私の生命は私のもの
 人間なんかのものじゃない」
※慚愧(慙愧)の念に堪えない
ざんきのねんにたえない
意味:自分を恥ずかしく思う気持ちが非常に強いさま
Weblio類語辞書より
ほぼ全ての歌詞を引用してしまったが知的で天才的な言葉を選びリリックに仕上げてきた彼が至極単純な言葉を繰り返しかつ圧倒的な歌唱力で歌い叫ぶ姿は今見ても鳥肌が立つ。それに一度は世の中に希望を見出した「Black Bird」がこれを歌っていると思うと感情移入せざるを得ない。ぜひこちらも合わせてご覧になっていただきたい。
ぼくのりりっくのぼうよみ「人間辞職(Live)」
https://youtu.be/zsVtx7hEMYM

私は言葉が大好きです。彼が書く言葉はとても美しかった。私の中にある言語化できない複雑な感情を言葉にして、歌詞にして、圧倒的な歌唱力と共に芸術へと昇華させていた。どれだけ暗い曲であろうとも私にとっては応援歌だった。彼が私の言葉にならない声を歌ってくれていたから今の私がいる。今これを書きながら脳内ではクラシックが流れ、コンサートも終盤で私は息荒げに指揮を振っている。彼が最後のライブのインタビューで「最終巻のよう、ページを捲る手が止まらない。」といった疾走感や多幸感はこういったものなのだろうか。私は私を形成してきた人物について、大好きな言葉で書き記すことができた。ありがとう、ぼくのりりっくのぼうよみ。たなかという人の歌声と歌い終えたあとの笑顔が見れて私は今も幸せです。ありがとう。

興奮気味にこの記事を書いた私がどういう人間かは過去の記事を参照していただくとわかると思います。
齊藤依、という人間https://saitouyori.hatenablog.com/entry/2021/01/26/233515
自分以外他人理論とはhttps://saitouyori.hatenablog.com/entry/2021/01/28/024606

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